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研究活動
クローズアップ

人の感覚をデータで読み解く先に広がる新たな未来

経営学部

伊勢 智彦 准教授

研究テーマ:データ分析 プログラミング教育

「ビッグデータ×農業」データサイエンスやAIが導くわたしたちの未来

今年度から、ある地域の農業団体と連携し、農産物の生産計画をデータサイエンスの力で支援するプロジェクトを進める予定です。これまでは、在庫量や経験を頼りに経験則に基づいた生産が行われてきましたが、近年の気候変動や需要の変化により、より計画的な生産管理の必要性が高まっています。
そこで私たちは、季節や天候、需要動向などのビッグデータを活用して、将来的な生産数を予測する仕組みを試作し、農業現場の意思決定をサポートすることをめざしています。

一見するとアナログな営みである農業ですが、実はデータサイエンスやAIといった最先端の研究と自然に結びつく分野です。今回の取り組みを通じて、「データサイエンスは私たちの日常のすぐそばにある」ということを実感してもらえるきっかけになればと考えています。

また、この活動は、地域の持続可能な農業の実現を支援するだけでなく、学生や若い世代にとっても“「ビッグデータ×農業」という新しい学びの可能性”を感じてもらえる契機になることを期待しています。

敷居が高いようだけど身近なデータサイエンスの世界

私はもともと機械工学を専門としており、数値シミュレーションなどを行いながら、製品設計や性能向上をテーマに研究を進めてきました。その中で感じてきたのは、「機械の性能が高いだけでは、人は必ずしも満足しない」という現実です。そこから「人がどう感じるか」という視点を取り入れた感性工学、さらに情報科学との融合である感性情報の研究へと関心を広げてきました。

感性情報とは、人が抱く「心地よさ」「扱いやすさ」といった感覚をデータとして捉え、分析し、設計やサービスに活かす取り組みです。研究を進める中で見えてきたエッセンスのひとつは、「感性は“形状・素材・操作性”と密接に結びついている」ということです。たとえば、同じ性能の製品でも、角の丸みや素材の質感、操作時の抵抗感が変わるだけで、使う人が受ける印象は大きく違ってきます。

もうひとつ重要なのは、「機械的な性能と人の感性は必ずしも比例しない」という点です。いくら性能が優れていても、音が不快であったり、操作が複雑であったりすれば、使う人の満足度は下がってしまいます。
こうした気づきは、私が学んできた機械工学に“人の感覚”という視点を加えるきっかけとなりました。感性情報の研究は、データサイエンスを通じて、単なる性能向上だけでなく「感性に寄り添った設計」へと発想を広げる大きな原動力になっています。

感性(主観)をデータとして分析する

感性情報の研究を行えば、こうした感覚をデータとして収集・分析することで、客観的に扱える知見へと変換しています。

この考え方が進むと、今まで感覚に頼るしかなかった領域に、新しい可能性が開けると思います。たとえば、製品デザインや乗り物の座席で、「疲れにくい」「安心感がある」と感じる形状や素材をデータ化し、設計に反映できることや、医療や福祉の現場で、「落ち着く音」や「安心できる照明」を科学的に導き出し、患者や高齢者に優しい環境をつくれるのではないかと考えています。また、観光やサービス業で、訪問者が「心地よい」と感じる要素を解析し、体験価値を高めるプログラムを提案できるとも考えられます。こうした実用例が広がることで、私たちの暮らしは「感性に寄り添った」方向へシフトしていくと考えます。

感性情報の研究は、人の感覚を“主観のまま放置する”のではなく、“データとして理解し、活かす”ことを可能にする取り組みです。その融合によって、これまで諦められてきた課題や、思いもよらなかった新しい価値が次々と生まれていくと考えています。

伊勢 智彦

執筆者

伊勢 智彦(イセ トモヒコ) ISE Tomohiko

経営学部

准教授

研究分野

社会・情報 理学・工学・建築

研究テーマ

データ分析 プログラミング教育